『ITアーキテクトのやってはいけない』(日経BP、2009)

本業(IT)関連で良い本[1]を買ったので紹介します。場末の書店で手に入れたのですが、半年以上前に出たものらしく、Amazon.co.jpでは既に品切れでした。レビューを見ると絶賛ばかり。

ITアーキテクトのやってはいけない 設計、メソドロジ、実装・テスト、運用、セキュリティのアンチパターン (日経BPムック)

本書はシステムズエンジニアリングの上流から下流までの「べからず集」です(アンチパターンという単語は使いたくないです)。

追記:Web上の連載[2]は現在も進行中の模様。分散KVSを扱った回[3]は内容の誤りを指摘する声があったと記憶します。
自分の職掌にコーディングは含まれてないので、実装がらみの項目の品質は判断できませんが、自分が知っている範囲では、どの項目も納得のゆく話です。

自分なりにパラフレーズしてみるとこんな感じ。Linuxカーネルチューニングは益が少なく引き継ぎが行われないからやるな、とか、パッケージの野良ビルドはやめとけ、とか、ルータの config を無考えにコピペするな、ACLを塞いだらいきなり操作不能になるぞ(特に初心者)とか、平均スループットを過信するな、とか、二重化ロードバランサの正常系はともかく、ビザンチン故障は考慮されない、とか、ラックあたりの給電は60Aが上限、それ以上は冷却できない、とか。

項目を128個に絞ったのは素晴らしいですが、それでも電源/空調系の話など内容的にかぶっている項目があります。テキストを絞って文庫本サイズにしてほしいと思いました。

ところで、外国でこの本を翻訳出版したらどういう評価を受けるのかは知りたいところです。対象としている技術基盤自体は世界のどこへいっても似たようなものの筈ですが、日本のシステムズエンジニアリングのレベルの低さを嘲られるか、それとも、ありそうでなかった本と評価されるか。

正直もう『ライト、ついてますか』や『ピーターの法則』で上機嫌になれるお年頃は過ぎてしまったので、自分の机脇にずっと置いておくことになりそうです。盗られたらやだなあ。

余談

以前からずっと思っていることですが、我々の職業には電工ナイフや安全靴、溶接面やスパナ、テスター、オシロスコープ関数電卓(ITじゃない普通の職工やエンジニア)、ブラックベリー端末(証券会社)、聴診器に白衣(メディカル)、試験管にピペット(バイオ)といった手頃な物質的な象徴が足りません。Java屋さんはEclipseで実体がなく、Cisco屋さんは水色のコンソールケーブルくらい、あとはタイラップとかテプラとか?新しいITガジェットに飛びつくのは一部の人だけだし、別にITの仕事をしているとも限らないし。傍目にはホワイトカラーのようにも見えるのはなんとかならないかと思っています。

インタフェースアーキテクチャやソフトウェアテクノロジの下位互換で縛られて長らく進歩のないこの職業にも、そろそろ〜必携とか〜手帳の類があればいいと自分は思います。このまま低成長が長引けばこの職業だって食い扶持の確保の為に職掌が土建業界並みに細分化してゆくのでしょうから。

そして本書の内容のかなりの部分は、整理吟味の後に、あらまほしき必携に含まれるべきものだと思います。

References:

[1] 『ITアーキテクトのやってはいけない 設計、メソドロジ、実装・テスト、運用、セキュリティのアンチパターン』, 日経BP社, 2009
[2] http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20090512/329773/
[3] http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20100713/350190/