記憶とはなにか?

記憶とはなにか?

それは「相関を切る」ことだ、と答えたい。

たとえばキーボードから文字を入力するとき、コンピュータが記憶する文字列はキーボード上の指の座標と運動量とそれらの高次モーメントと相関する。入力した文字が短いタイムラグで画面に表示されるなら、指のモーメントと画面上の表示の変化も相関する。

しかしいったん記憶した文字列はもはやコンピュータの外のいかなる現実ともほとんど相関しない。強烈な電磁ノイズでその記憶を破壊することはできるだろう、その文字列がオブジェクトとして持っているハンドルを知っている人間ならハンドルを指定して消去や編集できるだろう。

しかし、ハンドルを知っているとはどういうことか。つまりその文字列に用事がある、縁があるとは限らないが、少なくともそのコンピュータに用があるのだ。本人が書いたわけではなくとも、たとえばその人間がそのコンピュータにアクセスして文字列ハンドル一覧を取得するなどした場合、その人間の記憶とコンピュータの状態全体は相関している。その結果としてその人間はコンピュータの記憶した文字列にアクセスできる。