NHK 超絶 凄ワザ!「幻の技法解明SP 明治の超絶技巧を再現せよ!」(2016年9月24日放送):多様体の滑らかな変形について多くを教えてくれる映像

上記のテレビ番組を観た際に筆者が考えたことを簡単に述べたいと思う。筆者としてお伝えしたいのは、番組が2016年10月1日の16:35-17:05に再放送される予定であることと(実際の放送時間は電子番組表でご確認ください)、面白いので特にある種の人は本放送を観ていないのであれば絶対に観るべきであることの二点である。
追記:当該番組はNHKオンデマンドではこちらから視聴可能な模様。

番組の概要

この番組はNHK名古屋放送局が制作して2014年から放送されているドキュメンタリーで、主に製造技術分野での高度技術(state of art)をチーム対決仕立てで見せるという趣旨のもので、まあフジテレビの「ほこxたて」からの影響は否めない。とはいえ筆者は今回偶然に観るまでこの番組を知らなかった。
工芸の手法として、鍛金というものがある。これはどういうものかというと、金属板を鍛造、すなわち叩いて変形、伸縮させ、望む形の彫刻を作る、というもので、自動車などの板金加工の延長線上にある手法といえる。
明治時代の鍛金工芸作家、山田宗美(1871-1916)の、鉄板による作品は現代では再現不能とされる高水準の工芸品である。彼の主要作品は出身地の加賀市美術館に収蔵されており、没後100年の今年、特別展が催された他、常設の展示もある。
今回番組で取り上げたのは彼の作品「鉄打出兎置物」であり、現代の鍛金家、小林有矢がこの作品の部分的な再現に挑んだ。番組の立て付けとしては過去の名匠に現代の職人が挑む、という体である。なお山田や小林の仕事について筆者は全くの無知であることを付記しておく。

筆者の感想


写真:山田宗美作、鉄打出兎置物(勝手ながら加賀市美術館のロゴ画像を貼らせていただいた)
山田の「鉄打出兎置物」の兎の両耳部分は約11cmの高さがあり、これらを一枚の鉄板から溶接も鍛接(二枚の金属片に加熱、加圧して接合)もなしに穴を開けることなく打出すことは素人目にも常人のなしうることとは思われない。
幾何学的にいえばこれは連結性を失わずに特異性を生ぜしめるということであり(穴が開いたら種数が変化してしまうので)、ミレニアム数学問題のひとつである3次元ポアンカレ予想についてグリゴリー・ペレルマン(Grigori Perelman)が分析し遂行可能性を証明した、非特異化の操作を、逆順に辿れば、ほとんどそれそのものの操作といえる。
さて一旦そう見えてしまうと、筆者には、番組の中で小林が山田の作品の再現のために直面するあらゆる困難が、3次元多様体の変形にあたって直面する数学的困難と対応しているように思えてならなかった。
板金加工や、機械工学一般について知識のある方にはおそらくは肉厚を削るということの必要性や困難さを説明する必要はないのだろう。肉を削りすぎれば加工の度に強度が低下して、いずれ穴が開くのだ。
つまり、強度は接続の存在に、肉厚はエントロピーエントロピー密度)とか質量ポテンシャルとか、そういうものに見えてくるのだ。
これ以上語れば完全に興を削ぐであろう。あとは再放送をご覧頂くことを望むばかりである。なお番組に数学や物理学は一切登場しない。

リッチフローと幾何化予想 (数理物理シリーズ)

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