de Jong『経済学者のための次元解析』(1967)抄訳抜粋

出典

Dimentional Analysis for Economists, Frits J. de Jong, North-Holland, 1967

http://books.google.co.jp/books?id=F5BRAAAAMAAJ

本文以上に脚注が有意義と思われるので、興味あるセミプロ以上の方は原著のご確認を。

抄訳(pp.1-3)

次元とは何だろうか。そしてそれで何ができるのだろうか。

本書の主題は「測定に関する概念としての次元」である。これとは別の次元の概念、すなわち「幾何学的性質としての次元」については本書では扱わない。前者の意味での「次元」を以下のように簡潔に定義しよう:「次元とは加法的な量の集合である」。経済学者が次元の概念を明示的に適用することはめったにないが、いくつかの実例はある。

1879年にはジェヴォンズが『政治経済学原理』第2版で経済的次元を定義しようと試みた。ジョージェスク=レーゲン(Georgescu-Roegen)の論文「資本主義崩壊の数学的証明」でも次元の概念が使われている。最も興味深い実例はモーリス・アレー(Maurice Allais)によるものであり、1943年の『経済学ディシプリンの研究』およびその第2版である『純粋経済学概論』で次元の理論の組織的な扱いとその基礎を提示した。彼はいくつか新しいアイディアを示し、経済的次元の一貫した扱いによって先行研究の面目を一新した。アレーはまた物理的次元について述べることで重大な貢献をなした。彼の提示は二部に分かれており、それぞれ量の概念の分析と、次元解析に充てられており、これは経済量(および物理量)とその次元の長いリストを含む。

物理学者は経済学者とは違って次元の概念を頻繁に用いており、「次元解析」という数学まで作った。

抄訳(pp.21-23)

各分野での基本次元(primary dimentions)の選択は純数学的な手続きだけでは行えず、当該分野の研究者の専門知識に基づく取捨選択を要する。基本物理量の選択は物理学者にしか行えないし、基本経済量の選択は経済学者にしか行えない。

力学においては基本次元は質量、長さ、時間、温度の4つで十分であるが、経済学における事情はこれほど簡単ではない。経済学者はいかなる場合にも使える1種類だけの基本次元の組で済ませるわけにはいかない。マクロ経済量がミクロ経済量の単なる集計量でない限りは、ミクロ経済分析の基本次元はマクロ経済学の基本次元と異なるものにならざるを得ない。

(I)マクロ経済学の一番簡単で洗練されていない例として、アーヴィング・フィッシャーの交換方程式MV=PTは、財や貨幣の区別をしないという荒い前提に依拠しており、Tは「実物次元」[R]、Mは貨幣の次元[M]を持つ。MVは単位時間あたりの支払い総量であるから時間の次元[T]も必要である。従って基本次元としては[M][R][T]が必要ということになる。[訳注:訳出箇所の直後でも述べられているがVの次元を[T^{-1}]とするとPは[MR^{-1}]となる]

(II)ケインズ体系の場合には財に「消費財」「投資財」「労働」の区別があるが、理論上、実物的な恒等式Y:=C+Iが含意されており、つまり加法的関係が成り立つことから消費財と投資財は同じ次元を持つことになり、結局二つの実物的な次元[R_p](生産物)と[R_a](労働)が基本次元として必要ということになる。

(III)カッセル理論はさほど集計的でなく、家計部門と企業部門の代わりに各商品についてそれを生産する産業部門がそれぞれ存在する半ばミクロ的な理論である。n商品についての実物量[R_i](1<=i<=n)と労働量[R_a]、貨幣[M]、時間[T]のn+3個が基本次元となる。

(IV)ミクロ理論の例としてパレートの理論を考えると、実物次元はカッセルよりさらに多く必要となる。

ここまで閉鎖経済について考えてきたが、開放経済の場合には通貨の数だけの貨幣の次元を考えるのが通常は便利である。2国間の開放経済モデルでは通貨A[M_a]と通貨B[M_b]を考える必要がある。

なお上記で検討した諸体系はあくまで例であって、ここでは次元の側面だけを考えている。それぞれの理論の実質的検討は次元解析の経済学への適用を扱う本書の範囲を超える。